奇妙な人物ばかりが登場するのに、読み終えるとなぜか人間が愛おしくなる、不思議な愛憎劇。ディカプリオが映画化権を獲得!
実在しない作曲家のCD、「サイモン・シルバー ソロピアノ作品集」に添えられたライナーノーツという形式をとり、「才能」に憧れる男たちを描いた異色の小説。ライナーノーツには全曲解説があり、その解説を読んでいくうちに、サイモン・シルバーという前衛的すぎる作曲家の人物像と、その奇妙な生涯が浮き彫りにされてゆきます。
ライナーノーツの文章はすべて伝記作家ノーマンの一人称(という設定)。本書のおもしろさはノーマンがありきたりの伝記作家のように裏方に徹するのではなく、ひんぱんに自分を表にだす点にあります。世間から認められることへの渇望を訴え、孤独の恐ろしさを語るノーマン。自分を認めてくれないサイモンを憎みつつ、離れられない-けっして善人ではないが悪人でもない-その複雑さが魅力となります。
ひとをくったような登場人物たちに、ひとをくったような曲の数々、それらを記述する伝記作家のほうも人間嫌いときているから、この小説は一筋縄ではいきません。が、内容は理解に苦しむということはなく、音楽的な知識も必要ありません。むしろひねくれたユーモアに笑いを誘われるでしょう。少しミステリじみてくる後半も含めて最後まで飽きることなく読み進めることができる一冊です。
加えて本作は、レオナルド・ディカプリオの映画会社が映画化権を獲得しており、ディカプリオ本人が主人公役を希望しているようです。